明日11月9日、スポーツ仲裁裁判所（CAS）は「カミラ・ワリエワ事件」の審理を再開する。このロシアの若いフィギュアスケート選手に対するドーピング容疑に関する審理は9月26日に始まった。しかし、この事件の審理に割り当てられていた当初の3日間では足りなかった。「状況」を調査するため、新たに2回の審理が要請された。実際、現在の地政学的状況において仲裁裁判所が圧力に屈しないという意向は良い兆候である。なぜなら、最も才能のあるこの女子シングル選手のキャリアだけでなく、2022年オリンピックの団体種目での金メダルもかかっているのだ。我々の選手は無実である、というロシア側の立場に変わりはない。しかし、結局のところ、私たちフィギュアスケート界の全員がこれに同意しているわけではないのだ。
なぜ審理は延期されたのか？
3人の仲裁人からなるパネルは、9月26日から28日にかけて、RUSADA、国際スケート連盟（ISU）、WADA、ワリエワ、専門家の証言を聴取した。判決前の情報は通常公開されないが、当事者の立場は以前から知られている。WADAは選手の有罪を主張し、可能な限り最大限の罰である4年間の資格停止と、2021年12月25日からのすべてのタイトルの剥奪を要求しており、これにはオリンピック団体戦の結果をアメリカチームに有利になるように見直すことも含まれる。ワリエワは無罪を主張し、RUSADAは同選手に注意を与え、2022年のヨーロッパ選手権と2022年のオリンピックの結果を維持することで、2022年の国内チャンピオンのタイトルを剥奪するということに同意している。
ISUはCASの伝統を知っており、最も現実的と考えられる妥協的なアプローチを堅持している。それは、選手の罪を部分的に認めるが、彼女の若さ（違反当時、カミラはまだ15歳だった）を考慮し、2年間の出場停止にとどめるというものだ。ロシア選手権、ヨーロッパ選手権、そしてオリンピックでの彼女のタイトルがどうなるかは、まだはっきりしていない。明らかなのは、ロシアチームが北京オリンピックで金メダルを保持できた場合、メダル授与が大幅に遅れたことに対しうるさく抗議してきたアメリカ側のスキャンダルが確実であるということだ。しかし、この事件の特殊性は、評決が発表された後、どのような場合でも不満を持つ人が出てくるということである。
CASの審理が9月から11月に延期された理由は、弁護側がWADAは陽性反応についての通知手続きに違反していると訴えたからだと考えられている。規則によれば、すべての利害関係者が同時にそれを知るべきであるが、この場合、書簡は遅れて選手に送られたとされている。ストックホルムの研究所が以前にも検査期限基準に違反したことがあったことを考慮すると、これは訴追側にとって不利な背景である。ともあれ、裁判所は「追加書類の準備」を決定し、11月9日から10日にかけて証拠調べを続けることにした。これで判決はほぼ間違いなく年内には出ないだろう。つまり、2022年オリンピックの団体種目でのメダル授与は、2年以上滞ることになる。
トゥトベリーゼは誰を責めているか？
「ワリエワ事件」の審理の再開を待つ間、彼女のコーチであるエテリ・トゥベリーゼが公の場で発言した。この有名なコーチは、YouTubeチャンネル『Comment.Show』のインタビューで、「私は、団体戦のメダルの審議そのものが行われるべきでないと考えています。」と語った。「これは誰のミス？私たちのミス？いいえ。オリンピックで選手は潔白だった？そうです。これは誰の問題か？研究所です。これはチームの責任ではなく、彼らの責任なのです。メダルは修正されるべきではないのです。もし事前に結果を伝えていれば、アーニャ（シェルバコワ）とサーシャ（トゥルソワ）は滑ったでしょうね。そして、チームの結果は変わらず同じだったでしょう。彼女達も勝っていたでしょうから。」
さらにトゥトベリーゼは、「審理の参加者全員を嘘発見器にかける」ことを提案した。「私は真実を知りたいのです。それがどこから出てきたのか、何なのか、なぜなのかを知りたい。私は疑問が沢山あります。そして、答えが出ることはないと思います。」ここではっきりさせておきたいのは、アンチ・ドーピングの調査においてポリグラフが使われることがあるということだ。しかし、それはあくまでも補助的な手段である。有罪か無罪かの直接的な証明にはならない。特にカミラは2024年4月26日に18歳になる。そしてその年齢まで、彼女の証言（この事件に関末う重要な証拠）に「嘘発見器」は使えないのだ。おそらく、エテリ・ゲオルギエヴナの提案は選手のスタッフに対するものなのだろう。しかし、私たちのスポーツ界では、このアイデアは今のところあまり熱狂的に受け止められていない。
未検証の薬物検査を受けた選手のオリンピックへの参加に対する主張については、率直に言って、トゥトベリーゼの言うとおりである。このような行為は、「過去の罪」によって選手を大会から排除することにつながり、オリンピックの大会の価値を下げてしまう。しかし、アンチ・ドーピング組織（WADAとITA）の力は今や強大で、オリンピック主催者に条件を出すのは彼らであり、その逆はないのだ。東京オリンピックの際には、大会の数週間前に提出された検体が陽性であったために、多くの選手が「黒星」となり、結果を取り消された。残念ながら、これがドーピング・コントロールの現実である。アスリートやファンの利益を考えれば、これはナンセンスである。しかし、残念なことに、正義の怒りは「ワリエワ事件」には適用できない。
ロドニナのスキャンダラスな発言
この話題に関する最近の発言で最も驚いたのは、3度オリンピック王者となったイリーナ・ロドニナの発言だ。「ワリエワが意図的に潰されるターゲットにされていると言われても理解できないのです。私たちは目を覚まし、自分たちに過ちや失敗があることに気づく必要があります。ワリエワについて、私たちはもっときれいに嘘をつくことを学ぶべきでした。彼女が間違ってグラスを飲んだという話を誰が信じますか？そんなバカな話があるでしょうか？ワリエワの場合は、私たち自身の責任です。私たちは非友好的な国々に私たちの間違いを指摘する機会を与えてしまったのです。」と、以前にもこの件において「CASの公正さを信じている」と述べた伝説的なアスリートである彼女はSport24に語った。
イリーナ・コンスタンチノヴナのほのめかしは、2022年オリンピック個人戦へのカミラの出場に関する審理をさしている。その審理の際、CASのパネルの前で、弁護側はワリエワの親族が服用した薬による「ドーピング汚染」という説を示した。彼女の祖父は、カミラはが以前、彼の心臓病治療薬が入っていた洗っていないグラスを使用した可能性があると述べた。フィリップ・シュベツキー医師はタス通信のインタビューで、この説について次のように語っている。「そもそも、どのようにして彼女の体内に入ってしまったのか、その事実を明らかにすることが急務でした。それは明らかでした。私たちは薬理学研究所と連絡を取りました。この量を完全に除去するには24時間から72時間かかり、それ以上はかかりません。ですから、そうです、最初に思いついたのはこのことでした。」
しかし、新たな審理の前日に、この説を 『きれいな嘘』と断定するのは間違いだ。CASでは、「家庭内汚染」を理由に選手の処分が取り消されたり減刑されたりしたケースが何十件もある。そして時には、キスや共有のタオル、接触によるドーピング感染のような信じられないような話を調停員が信じることもあった。ワリエワの場合、弁護側は、フィギュアスケートでは役に立たないトリメタジジンがどのようにして選手の体内に入ってしまったのかについて説明する義務があった。そして、「禁止物質が選手の体内に摂取されたのは、コンタミネーション（意図せずドーピングが通常の食品に混入したこと）による可能性が高い」という事実は、至って普通の説明なのである。コンタミネーション（主に汚染されたサプリメントに関するもの）は、今や陽性反応に対するアスリートの説明の中で最も一般的な言葉である。
もう1つの問題は、これらすべてを証明しなければならないことだ。目撃証言だけでは通常は不十分なのだ。しかし、唯一の選択肢は、軽い量刑を期待して有罪を認めることだ。アンチ・ドーピング制度は、（たとえ選手が無実を確信していたとしても）悔い改めて汚名をそそぐ方が簡単で安上がりなように設計されている。もしワリエワがすぐに罪を認めていたら、すでに刑期を終えて静かにキャリアを続けていただろう。しかし、この事件はカミラ個人だけでなく、代表チーム全体、さらにはオリンピックの金メダルの問題にまで影響する。だからこそ、ここで（彼女の良心とアンチ・ドーピング当局との）妥協はありえないのだ。戦いは最後まで続くだろう。
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