
日本の坂本花織が大差(25点!)でグランプリ・カナダ大会を制した。
世界選手権2連覇の地位を持つことは、原則としてこういう素晴らしいパフォーマンスを期待されるようだ。しかし、2か月前の地元の大会では、元ジュニアの吉田陽菜と住吉りをんに敗れている。
世界最高のフィギュアスケーターは、今シーズンをどのように迎えたのだろうか?
最初の大会ではどちらの演技も失敗し、5年ぶりのワーストスコアとなった。まだ不安定さが妨げとなっている。
2023/24シーズンの坂本は、彼女のシニアとしてのキャリアの中でも最も厳しい大会から始まった。8月に滋賀で開催されたげんさんサマーカップでは、187.62点しか出せずに銅メダルとなった。それより悪いスコアの180.85点を出したのは、2018年のロンバルディア杯の時だ。
サマーカップでは、ショートプログラムで2度のジャンプでミスし、フリーでは2度転倒、最後のスピンもミスがあるなど、花織の調子はまだかなり未熟な状態だった。1ヵ月後のオータム・クラシックでは、コンビネーションジャンプとトリプルループで失敗したものの、金メダルを獲得した。
自己ベストを50点も下回る成績は一見悲惨に見えるが、坂本にとってこのような結果はスランプの兆候ではない。彼女はいつもシーズン初めは調子を上げるまでに時間がかかるのだ。
グランプリでの成績が振るわないのもそのためだ。これまで彼女が出場した13大会のうち、優勝したのは4大会だけだ。プログラムを積み重ね練習し、自信をつけるために、花織はできるだけ多くの大会に出場している。
昨年は11大会に出場した(他のスケーターは平均6~8大会)。2023年、スケートカナダの前には3つの大会に出場した。
坂本はバンクーバーでほぼ完璧な演技を見せた。ジャッジ達が疑問を呈したのは、ショートプログラムのルッツのエッジの事だけだった。このミスは何年間も時々犯している。だが他のエレメンツはGOEの評価で少なくとも+2の評価となった。
滋賀の大会から2ヵ月、坂本は体重を落とし、体を引き締め、ジャンプの高さとスケーティングの軽さを取り戻した。2日間を終えた時点で、彼女はいつもの226点に達していた。とはいえ、本人によれば、これは望むレベルにはまだほど遠いということだ。
「多くのことを改善する必要があります。スピンをもっと良くしたいし、演技構成点をもっと上げたいです。今からフィンランドの大会に向けて全力で準備します!」カナダ大会の終了後、彼女はそう約束した。
不安定さは相変わらず花織の最大の問題点だ。不快なエレメンツはひとつもないわけではなく、すべてのジャンプで予期せぬ転倒やパンクが起こる。しかし、彼女にはすで世界最高のコンポーネンツがある。彼女は2年前、ロシア勢と競ったとき、この指標でトップ3に入っていた。
新しいプログラムでは、恐らく坂本はセカンドスコアを上げられる可能性が高い。今坂本は、彼女にしては馴染みのない魅惑的なイメージで滑っている。
フリーでは初めて運命を背負った女性の役を演じた。ショートはほぼ5年前のプログラムのコピーのようなものだが、そこにはまったく違う花織がいた。
坂本のフリーは、ローリン・ヒルのWild Is The WindとFeeling goodのブルースに合わせたものだ。
重厚なメロディーは、深いエッジと長く広い弧を描く彼女のスケーティングとよく調和している。彼女のプログラム全体が柔らかなターンと女性らしい動きのジャズ・モダン・スタイルで披露されるのは初めてだ。彼女にとってこれは特に難しい課題だった。このダンスはパフォーマーの表現力や感情表現に大きく左右されるし、坂本はキャリアの中でこのようなイメージをやったことがなかった。
花織のお気に入りのスタイルは、オーストラリアの歌手シーアのElastic Heartのような、人生を肯定するようなポップだ。この新しいスタイルは、同じ振付師であるフランス人のマリー=フランス・デュブレイユが担当した。
この曲にふさわしい衣装は、背中がむき出しになった黒のドレスで、胸の部分にはゴールドのストーンが散りばめられている。グラデーションを効かせた黒のロンググローブを合わせ、体を視覚的に引き伸ばし、優雅さを強調するよう工夫されている。
一方、ショートの方は、ピアニスト清塚信也の『Baby, God Bless You』という優しい歌詞の曲が選ばれた。プログラムの振付を担当したのは、アスリートにもよく知られ、ジェイソン・ブラウンのキャリアにおけるメイン振付師でもあるデヴィッド・ウィルソンだ。2018年、彼はすでにシャルロット・チャーチの『From My First Moment』で、坂本のために同じような雰囲気の作品を作っていた。そこでの構成、動き、スタイルは2023/24のショートプログラムに通ずるものがある。
その意味で、この新しいプログラムは、この5年間で花織がどのように変化したかを反映したものである。この間、彼女はスピードと自信を増し、世界選手権で2つの金メダル、2022年北京大会で銅メダルという、大きなメダルも獲得した。
坂本はリンク以外でも多忙な日々を送っている。オフに大学を卒業し、料理ブログを撮り、日本球界のファンに好かれる。
一番直近のオフの時、坂本は氷上で新たなイメージを見つけただけでなく、新たなステータスも手に入れた。9月、彼女は神戸学院大学を卒業し、プロのスポーツマネージャーになった。卒業証書とともに、競技における大学の栄誉を称える賞も贈られた。
世界選手権の準備のため、花織は同級生より半年遅れて卒業したが、後悔はしていないと断言した。「ただ、うれしいです。卒業できました!」 とファンクラブで語った。
試験やトレーニング、インタビューの合間に、花織はThe Iceで滑った。そこで彼女は新しいフリーを初披露した。
また、アイスダンスのカナダ人選手の料理ブログに出演したり、野球チームオリックスバファローズの試合にスターゲストとして何度か足を運んだ。ある試合では、彼女は象徴的な投球を披露した。1回目では成功せず、練習が必要だった。
その時は世界選手権での2度の優勝のシンボルである背番号11のユニフォームを着てマウンドに立った。
大会シーズンに入り、坂本の焦点はトーナメントに戻ってきた。今年は、まだ表彰台に立っていない唯一の大会であるグランプリファイナルでのメダル獲得を目指す。
2022年12月、すでに世界チャンピオンであり、五輪メダリストであり、四大陸選手権優勝者でもある彼女は5位に終わった。エスポーでのシリーズ残り1戦(11月17日)で、彼女の次の決勝進出が決まるのだ。
Фото: Naoki Nishimura, Darryl Dyck, Mathieu Belanger/Global Look Press
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