羽生結弦はISU(国際スケート連盟)の監査報告書で言及された唯一のフィギュアスケーターだ。
報告書では、悲しくも、この二度のオリンピックチャンピオンの引退が、観客やスポンサーにとってフィギュアスケートの魅力に対して影響を及ぼしたと認められている。もちろん、特に主要市場である日本においてだ。そして、それは世界中にも影響が及んでいる。
ISUが、羽生結弦がいないことで明らかに苦境に立たされているのに対し、羽生自身は多くのプロジェクトをこなし、その中で素晴らしい成果を上げている。
昨年、彼は競技大会からの引退を発表し、感動的なスピーチを行い、4回転アクセルを含めたさらに面白いものを氷上で見せると約束した。実際に、この1年間で羽生の出演回数は、過去2シーズンの出場回数を合わせたものよりも多くなっている。そして、「ユズ」はアイスショー業界に革命を起こした。
彼は新たなフィギュアスケートの形式である「ワンマンショー」を推進した。彼のショーではスタジアムに観客が集まり、映画館やテレビでも放映されている。
27歳までに羽生はフィギュアスケートで可能なすべてのタイトルを獲得し、19もの世界記録を樹立した。この年齢はまだ競技を続けることができる年齢だが、 怪我によってもう以前のレベルと同じように滑ることは難しくなった。
現役時代で経験を積んだ彼は膨大なファンダムを築き、今も変わらず彼のショーは常に満員の観客を集めている。彼は伝統的なファンタジー・オン・アイスなどのチャンピオンシップツアーに参加するだけでなく、個人的な大規模ショーパフォーマンスも行っている。
2022年11月には彼のプロジェクト「プロローグ」が初演された。日本では5回の公演がテレビや映画館で放映された。羽生はこのショーの主役でありプロデューサーでもあり、ショーには彼の伝説的な競技時代の演技が登場する。彼はアイスショー業界で新しい方向性を開拓しており、ワンマンショーという形式を展開している。彼以外のアーティストは時折出演するだけで、主役はあくまでもこのチャンピオンなのだ。
羽生はアナウンサーの声に合わせて登場し、観客の前でウォーミングアップをした後、気分を整えるためにくまのプーさんのいるスケートリンクの脇へ行き、その後にパフォーマンスを始める。まるで昔の大会のようだ。
しかし、「プロローグ」は、もう一つの壮大なプロジェクトである「Gift(ギフト)」への序章に過ぎない。このプロジェクトは、約3時間に及ぶワンマンショーで、羽生の伝記を旅するようなものであり、彼の象徴的なプログラムや新しいパフォーマンスを集めたものだ。
プレミア公演には3万5千人が訪れ、映画館では3万枚以上のチケットが売れた(日本、台湾、香港、韓国において)。また、日本のDisney+や国際ストリーミングサービスのGlobe Codingでも放映された。
このショーでは、複雑なグラフィック、セットデザイン、東京フィルハーモニー管弦楽団が使われた。これほどのスケールのパフォーマンスを行ったフィギュアスケーターはこれまでにいなかった。
演目には、羽生のキャリアにおける大事な場面が反映されており、そこには、3つのエレメンツを失敗して4位となった2022年のオリンピックも含まれている。
今では、「ロンド・カプリチオーソ」というフリープログラムは感じが異なってきている。「これは僕が北京オリンピックで滑り切れなかったプログラムです。今日僕は、あの時の完全に実現できなかった夢を、その気持ちを再現したような感覚です。自分が最初に想像していたようにではないかもしれませんが、夢を実現することは可能だというメッセージを伝えたかったのです。」と彼は初演後に語った。
羽生はまた、「Let Me Entertain You」、「Let’s Go Crazy」、「SEIMEI」、「オペラ座の怪人」を披露した。また、エキシビションプログラム「春よ、来い」や、アニメ映画「千と千尋の神隠し」のサウンドトラック「あの夏へ」に合わせた新しいプログラムも披露した。
これらは全て、ステップやスピンが盛り込まれている完全なプログラムであり、そのうちのほとんどに(主に3回転)ジャンプも含まれているのだ。これら全てをやり切ることは物理的に不可能だと思われたが、羽生はまたもや、私たち自身が限界を自ら決めているのだということを証明してくれた。
彼は地球を救うという考えを推進し、いくつかのSNSも運営している。彼の動画は何百万回も再生されている。
羽生のスケートが見られるのはショーだけではない。2022年に彼は最も利用者数の多いSNSにページを開設し、YouTubeチャンネルを作成し、トレーニングの映像をアップロードしている。ほとんどの動画は既に100万回以上再生され、彼のメッセージ動画は1年足らずで420万回も再生された。
撮影と編集は羽生自身が行っている。チャンネルの立ち上げ時に彼は、氷上以外の彼の生活も紹介すると約束したが、それについてはまだ一つも公開されていない。その代わり、4回転トウループとサルコウは既に証明した。
4回転アクセルについては現状不明である。ガラコンサートや動画では披露していない。しかし、彼は引退の記者会見で、4回転アクセルを絶対に諦めないと断言した。なぜなら、彼と多くのファンにとって、4回転アクセルは夢だからだ。
SNSやショーは、羽生が参加している環境保全活動を推進するのに役立っている。『Gift』の初演後、羽生は『Notte Stellata』(イタリア語で「星の夜」の意味)というシリーズのパフォーマンスを行った。このシリーズは、2011年3月11日の東日本大震災に捧げられたものだ。2023年、羽生は故郷の宮城県でいくつかの公演を行った。
12年前、彼は震災の被害によりホームを長期間離れなければならず、スポーツを辞めて人々を助けるため別の職業に変えようとさえ考えたこともあった。後に羽生は、震災の後の夜に星が特に美しく見えたと語っており、それにちなんで新しいツアーにその名前をつけた。
『Notte Stellata』にはシェリン・バーン、ジェイソン・ブラウンや、宮原智子、田中刑事など何人かの日本のシングルスケーターも出演した。このショーは震災の犠牲者を追悼し、自然災害の問題に意識を高く持ってもらうために上演された。

もちろん、これらのパフォーマンスを作り上げるには羽生と共に大勢のチームが関与しているが、羽生は主要なインスピレーションの源でありプロデューサーなのだ。彼のスケジュールは、現役時代よりも忙しくなっている。それにもかかわらず、彼はトレーニングを欠かさず行っており、プログラムのために良いコンディションを維持しているのだ。
この伝説的な日本人にとって、努力は日常の一部だ。彼は引退する際に、さらに一層、熱心に練習し、スポーツを発展させると約束した。「生のフィギュアスケートを見たことがない人々を含め、人々にとってそれが本当に素晴らしいものであり、見る価値があるものだと思ってもらうために、僕は最善を尽くします。僕は自分に試練を与え、4回転ジャンプを含むさまざまなことに取り組み、より高いレベルに到達するために全力を尽くします。」と述べた。
既に1年が経ったが、確信を持って言えるだろう。羽生は約束を守ったのだ。
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